漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
11.
消化管、肝胆膵の疾患
文献
樋口清博, 清水幸裕, 安村敏, ほか. 臨床研究-十全大補湯による肝発癌抑制効果の検討: 肝硬変症例を対象に. 肝胆膵 2002; 44: 341-6. 医中誌 Web ID: 2002240679MOL, MOL-Lib
1. 目的
肝硬変に対する十全大補湯投与において、肝細胞癌の予防効果を評価
2. 研究デザイン
ランダム化比較試験 (封筒法) (RCT- envelope)
3. セッティング
富山医科薬科大学附属病院内科
4. 参加者
B型およびC型肝炎ウイルスによる肝硬変の患者52名
ただし試験開始より1年以内に肝癌の発生した症例は除外した。 また小柴胡湯、インターフェロンを用いた場合は除外された。
5. 介入
Arm 1: 十全大補湯群 (B型8名、C型15名、B+C型1名)
Arm 2: 非使用群 (B型5名、C型22名、B+C型1名)
6. 主なアウトカム評価項目
Kaplan-Meier法による累積生存曲線 (Long-rank test (Mantel-Cox test), Bleslow
Gehan-Wilcoxon test, Peto-Peto-Wilcoxon test)
Kaplan-Meier法による肝細胞癌発生の累積ハザード曲線 (Long-rank test
(Mantel-Coxtest) , Bleslow Gehan-Wilcoxon test, Peto-Peto-Wilcoxon test)
肝癌発生の基準は画像を中心とした臨床診断で肝癌の所見の出た最初の時点とした。
7. 主な結果
肝硬変全体での累積 生存曲線では Long-rank test (Mantel-Cox test), Bleslow
Gehan-Wilcoxon test, Peto-Peto-Wilcoxon testで検定を行うと十全大補湯群と非使用群で
それぞれChi-squareがそれぞれ 4.066, 6.467, 5.217 (P値 0.0438, 0.0190, 0.0224) と十全大 補湯群で有意に生命予後が良好であった。C 型肝硬変の累積生存曲線では両群間に有 意差を認めなかったが十全大補湯群で生命予後良好の傾向が認められた。肝硬変全体 での肝細胞癌発生の累積ハザード曲線では、Chi-square5.265, 5.578, 5.921 (P値0.0218,
0.0182, 0.0150) と十全大補湯群で肝細胞癌の発生が有意に少なかった。C型肝硬変のみ
ではBreslow Gehan-Wilcoxon test, Peto-Peto-Wilcoxon testで十全大補湯使用群が非使用 群に比べて有意に少なかった (Chi-square 4.659, 4.483 P値0.0309, 0.0342) 。
8. 結論
肝 硬変 に対 する十 全大 補湯 の投 与に より肝 細胞 癌発 生が 抑制 される こと が示 唆さ れ る。
9. 漢方的考察
なし
10. 論文中の安全性評価
記載なし
11. Abstractorのコメント
肝細胞癌は肝炎ウイルスを基礎疾患とすることが多く、本試験は貴重な報告といえる。
Methods in Kampo Pharmacology (2000; 5: 29-33) に発表された試験と同様の試験と思わ
れる。前調査では除外された肝癌発生が半年以内だったのに対し本調査は 1年以内、 小柴胡湯やインターフェロン投与者を除外するなど、包合基準を厳しくしているため 参加者数は減少している。さらには多彩な検定法が付加されることによって前調査よ りも有意な結果となっている。コントロールにプラセボをおいたり、盲検化がなされ ていれば、より信頼できる結果となったにちがいない。臨床的には有意義な結果であ る。
12. Abstractor and date
鶴岡浩樹 2007.6.15, 2008.4.1, 2010.6.1, 2013.12.31